国が推進する自立支援介護とは?〜竹内理論の基本と批判〜

介護業界で働く理学療法士の阿部(@yousuke0228)です。

スポンサーリンク




平成28年11月10日の未来投資会議にて自立支援介護がピックアップされました。

医療介護業界で働く方たちは知っておいた方が良さそうですよ!

利用者さん家族
今よく聞く「自立支援介護」ってなんですか??
あべ
え・・・あ・・・え〜と

こうなると困りますので、リサーチしてみました。ぜひ参考にしてみてください。

自立支援介護(竹内理論)とは?

その人の「身体的」「精神的」かつ「社会的」自立を達成し改善または維持するよう、介護という方法によって支援していくことをいう。(引用:新版介護基礎学ー高齢者自立支援の理論と実践より)

実はそもそも介護保険制度の基本理念は「自立支援」なのです。

「自立支援」とは、単に介護を要する高齢者の身の回りの世話をするということではなくて、高齢者の自立を支援していくこと。

一見当たり前のように思うのですが、これがなかなか難しい部分でもあります。

介護保険スタートから17年目に「自立支援介護」というフレーズが出てきたということは、少なからず自立支援を促せていなかったという反省が込められているはずです。

自立支援介護の基礎ー4つの基本ケアー

  1. 水分:1日1500ml
  2. 栄養:1日1500kcal
  3. 運動:1日2km
  4. 便通:3日以内の自然排便

(引用:新版介護基礎学ー高齢者自立支援の理論と実践より)

という量的な目安も定められている。

4つの項目に関しては互いに影響しあうことから、4項目が揃って初めて効果を発揮するとみなす。

自立支援介護を学ぶなら、竹内孝仁教授の「新版 介護基礎学ー高齢者自立支援の理論と実践」

この書籍は唯一(?)自立支援介護について学べる教材です。

自立支援介護の提唱者の竹内孝仁教授が著者。

日本自立支援介護学会・パワーリハ学会

日本自立支援介護学会・パワーリハ学会という一般社団法人があり、理事長は竹内孝仁教授。

学会によると自立支援介護とは・・・

  1. 補完する介護ではなく、自立を支援する介護
  2. 基本ケア(水分・食事・排便・運動)が鍵
  3. 認知症も理論的介護で症状消失

(引用:日本自立支援介護学会・パワーリハ学会HP

なぜ未来投資会議で自立支援介護が注目されたのか?

平成28年11月10日の未来投資会議にて自立支援介護がピックアップされました。

ここで竹内孝仁教授から提出されたのが以下の資料です。

(引用:健全かつ持続可能な介護保険のために -⾃⽴⽀援介護のすすめ

自立支援介護の成果として示された最後のスライドが肝です。

本人のQOL向上、家族の介護負担軽減といったフレーズもありますが、「医療費削減」の文言がきっちり入っています。

タイトルが健全かつ持続可能な介護保険のためにと言っているのですから、財源の話になるのは当たり前ですね。

要介護度が重い状態ほど、介護報酬の単価が高く設定されているため、状態がよくなれば、1人1人にかかる介護の時間や手間が減少して、結果的には介護費用を削減することができるという目論見です。

介護保険サービスは日本国民にとってありがたい制度なのですが、国の視点からすると唯一最大のデメリットが財源の話・・・。

介護費用をうまく削減してくれる介護方法があれば、喉から手が出るほど欲しいはずです。

それが「自立支援介護」だったということです。

自立支援介護や竹内理論に対する批判

これだけ世の中の注目を一気に集めた「自立支援介護」ですが、介護業界の中では以前から「竹内式介護」というように言われておりました。

それが一気に広まることによって、批判的な動きもあります。

全国老人福祉施設協議会の動き

「自立支援」を謳った給付抑制の動きに対して、平成28年12月5日に塩崎厚労相へ意見書提出。

①要介護度改善の見込みが難しい高齢者の受入れに関する阻害要因となり、在宅において一層介護が必要となるリスクを生むこと

②利用者に望まぬ栄養摂取やリハビリテーションを課すことになること

③在宅復帰等を望まないあるいは適応が困難な利用者にも退所を促す脅迫観念を与えること、 など、各方面からの批判が強い。

今回全国老施協が提出した意見書では、「いわゆる“自立支援介護”は、自立支援が本来持つべき幅広い価値観から要介護度改善を唯一の評価尺度に置き、自立支援の概念を固定化することで給付費抑制(介護報酬削減)につなげるもの」とし、以下の3点から、すべからく義務として報酬ダウンに紐づけることは不当であると訴えている。

(1) 原則として中重度要介護者を受け入れる特別養護老人ホームにおいて、利用者の要介護度が重く なることは自然の摂理である。

(2)“自立支援”介護とは“自己実現”介護であり、そのひとらしい生活を送ることが出来る社会づくり(横断的な施策)こそ必要である。

(3) ICT によるビッグデータから介護分野のレガシーを普遍化し、専門職等によって弾力的に運用していく取組を進めるべきである。

(出典:「自立支援」を謳った給付抑制の動きに危機感示す 塩崎厚労相へ意見書を提出

科学に裏付けられた介護に関しては認めているものの、自立支援は意思決定が重要な要素であるから、望まぬリハビリや栄養摂取、在宅復帰などが強制される可能性があり危険だという論調。

東京社会福祉士会の動き

こちらは平成29年6月1日付けで声明を発表。

東京社会福祉士会は、本人の意思を無視した要介護度の改善や認定率の低下の目的化を助長する財政的インセンティブ(動機づけ)措置に反対します。

そして、本人の意思を尊重した全人的(身体的・心理的・社会的)な自立支援を推進します。

〜中略〜

自立支援は本人の尊厳の保持を前提とした全人的な取り組みです。

身体的自立に偏重した自立支援ではなく「尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」支援する自立支援の展開が図られることを強く要望します。

(出典:自立支援・重度化防止に向けた取組の推進に対する声明

自立支援は身体的な自立だけに偏重してはいけないという論調。

なにかの政策が進むときには、各団体からの意見書などが出されます。

今回も基本的には「自立支援」という誰もが文句を言えないフレーズの中に、給付抑制をねじ込まれた(?)ことへの反対意見が多いようです。

他にも・・・

平成30年度に国際医療福祉大学大学院で「自立支援介護学修士課程(1年)」が新設

これは先日参加した高齢者住宅フェアでの竹内孝仁教授の講義内での話。

自立支援介護学修士課程が新設されるとのこと。

どのようなカリキュラムの詳細になっているのかなどは現時点(平成29年8月6日時点)では不明です。

私自身、国際医療福祉大学大学院の保険医療学修士課程を7年ほど前に修了しているのですが、この「自立支援介護学」・・・気になっております。

まとめ:自立支援介護は止まらない

今後の流れ

「自立支援介護」は国が推進する形ですので、この流れは止まりません。

介護保険サービスの持続可能性を考えたら当たり前の話。

国の財源は厳しい状況で、いかに社会保障費を削減するかということに躍起になっています。(これも当たり前)

介護保険サービスという国の保険内のサービスで働くのであれば、この流れからは逃れられないと思った方が良いでしょう。

私たちがやること

この変化はただ改悪ということではなくて、介護保険創立18年目にして、また時代が変わったということです。

国だって介護が必要な方が介護を受けられない状況(介護難民)が良いと言っているわけではありません。

社会保障費をどのようにしたら削減できるかということを詰めて詰めて考えている結果だと思っています。

そこに異論があるのであれば、介護サービス側も今までのやり方で売り上げが立つような方法を考えるしかありません。

(自費サービスや混合介護の推進がこのあたりに通じているはず。)

今後の人材不足の問題を考慮すると、介護ロボットの活用や、書類などのシステムをIoTで抜本的に変えるなど・・・「変化する」ということに取り組んでいかないとどうしようもないのは介護保険に関わるみなさんわかっているはず。

ということで、自立支援介護を学んでいきましょう。

スポンサーリンク




The following two tabs change content below.

阿部洋輔

デイサービス管理者の理学療法士/保健医療学修士/介護業界10年/介護業界で働く施設のマネジャーやリーダー、介護が必要な家族を持つ方に向けて情報を発信しています/みんなの介護「介護の教科書」コラム執筆しています/2人の娘の父/詳細なプロフィールはこちらです

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

ABOUTこの記事をかいた人

デイサービス管理者の理学療法士/保健医療学修士/介護業界10年/介護業界で働く施設のマネジャーやリーダー、介護が必要な家族を持つ方に向けて情報を発信しています/みんなの介護「介護の教科書」コラム執筆しています/2人の娘の父/詳細なプロフィールはこちらです